東京街道沿いに下げられた藍色ののれんを潜れば、弁柄色の木戸。小体で静謐な空間が広がる。
まず酒は、小さいグラスに三種類の純米酒が注がれた「参酒」八百円から始めてはいかがか。ある日のそれは、開運、鶴齢、宗玄のにごり。その後燗酒を頼めば、「味の違いを試してください」と、おちょこ一杯の冷や酒が出される。酒好きにはたまらぬ趣向である。
肴もツボを突く。細長い板に浸けて焼かれた「焼き味噌」四百九十円や、豆腐味噌漬け「悠久豆腐」四百八十円は、猛烈に燗酒が恋しくなり、そば汁を含んだ「卵焼き」七百八十円は、甘さと出汁が程よくきいて、心を落ち着かせる。
また、葱の素直な甘さと肝や返しの味がからんだ烏賊による、「千住葱と返し漬け烏賊の肝焼き」六百八十円もお奨め。
そばは珍しい「重ねせいろ」千四百円はいかがか。
もりと温もりの二枚仕立て。まずは、なんとも優しい甘みを忍ばせる極細打ちのもりの、草のような香り、もちっと歯を返すコシ、凛と引き締まったつゆを楽しむ。
次に温もりのふうわりと広がる甘み、噛みこむに従って滲み出る穀物のうま味を楽しむ。薬味はおろしのみ。そば湯時に葱が出されるのも潔い。
そば湯はポタージュの如く。
2019年秋閉店 茨城に移転 村山東亭